ユタという言葉を聞くけれど、実際に何をする人なのか分からない。

調べても、観光の案内か、占いの申し込みページに行き着いてしまう。会うべきかどうか、判断がつかない。

先に答えを言うと、ユタは沖縄と奄美に伝わる、民間の霊媒師です。ただ——僕が伝えたいのは、定義よりも、会いに行った夜と、そのあとに分かった見分け方のほうです。順番に、書きます。

ユタとは、何をする人なのか

ユタは、沖縄県と鹿児島県の奄美群島に伝わる、民間の霊媒師です。神と人のあいだに立って、先祖と交信し、相談ごとに答えを返す。それを生業にしている人たちです。多くは女性ですが、男性のユタもいます。

相談の中身は、意外なほど生活寄りでした。新年の運勢。家族に病気が出たときの相談。人間関係。事業を起こすとき、家を建てるときの見立て。結婚したい相手が合っているかどうか。

同じ南の島でも、ノロと呼ばれる人たちは役目が違います。ノロは村の祭祀を担う、いわば公の立場。ユタは個人の相談に応じる、私の立場。制度の内と外、という分かれ方です。

ノロ村の祭祀を担う公の役目。世襲の側面個人の相談は受けないユタ個人の相談に答える私の立場。生業として営む運勢・病・縁・家の見立てノロ村の祭祀を担う公の役目。世襲の側面個人の相談は受けないユタ個人の相談に答える私の立場。生業として営む運勢・病・縁・家の見立て
同じ島の霊的な役目でも、ノロは公、ユタは私。相談に行くのはユタのほう。

ここまでは、調べれば出てきます。問題は、当たるのかどうかでした。

疑うのが仕事の男が、先に信じていた

僕は理系で、こういう話を信じない側の人間でした。占いは統計と話術だと思っていました。

引っかかったのは、紹介してくれた人です。探偵事務所をやっている友人でした。人を疑うことが仕事の男です。浮気の証拠を押さえ、嘘を見抜き、人はごまかすものだという前提で生きているプロが、こう言いました。

あの人は、本物だよ。

しかも彼の家族は、逆に鑑定を受けたがらないそうです。先が視えてしまうから、怖い、と。外れる占いなら、誰も怖がりません。

それでも僕は、トリックをあばくつもりで島へ渡りました。着いた先は、拍子抜けするほど普通の一軒家でした。神秘の森でも、名所でもない。生活感のある家の、二階の一室です。じんべえ姿の、ふくよかな男性。奄美大島の、霊感を継ぐ一族の末裔。元は自衛隊にいた人だと聞きました。鑑定料は、一時間で一万円でした。

彼はまず、見たことのない植物をたきました。煙を、ゆっくり吸い込む。そして、聞いたことのない言葉を、唱え始めました。この時点での僕の感想は、演出が凝っているな、です。

でも、そこからでした。彼は、初対面の僕のことを、言い当て始めたんです。経営者を目指していること。当時つきあっていた彼女との、誰にも話していない関係のこと。彼女の体調が崩れていることまで。

紹介疑うのが仕事の探偵が「本物だ」と言う現場普通の一軒家の二階。演出が凝っている、と思う的中誰にも話していないことを言い当てられる外れ名前を書き間違えた一枚だけが、何も当たらない紹介疑うのが仕事の探偵が「本物だ」と言う現場普通の一軒家の二階。演出が凝っている、と思う的中誰にも話していないことを言い当てられる外れ名前を書き間違えた一枚だけが、何も当たらない
疑って行った夜の順番。落ちたのは、当たった話ではなく、外れた一枚だった。

最後に僕を落としたのは、的中の連打ではなく、外れた一枚のほうでした。八枚の紙のうち、名前の漢字を一文字だけ書き間違えた紙。その一枚だけが、何ひとつかすらなかった。話術なら、僕の反応を読んで当てるはずです。僕自身、書き間違いに気づいていなかったのだから。それなのに、そこだけ外れた。読んでいたのは僕ではなく、紙の名前の先にいる本人のほうでした。

本物と偽物は、どこで分かれるのか

あの夜のあと、僕は本物を探して世界を回りました。そこで、本物にも、明らかな偽物にも会いました。

見分け方は、ひとつだけです。

本物は、不安をあおりませんでした。

このままだと不幸になる、と脅して高額なものを売ってくる人のなかに、本物はひとりもいませんでした。島のユタも、僕を脅しませんでした。焦げた紙を見て、逮捕されるね、と言っただけで、それを避けるための何かを売りつけてはこなかった。

そして本物ほど、普通の場所にいて、肩書きを持っていませんでした。じんべえ姿のおじさんです。名刺も、実績の表も、ありません。

偽物のしるしこのままだと不幸になる、と脅す。避けるための高額なものを売る。神秘的な場所と肩書きで格を作る本物に共通していたもの視えたことを言うだけで、脅さない。売りつけない。普通の家にいて、肩書きがない。家族が怖がるほど当たる偽物のしるしこのままだと不幸になる、と脅す。避けるための高額なものを売る。神秘的な場所と肩書きで格を作る本物に共通していたもの視えたことを言うだけで、脅さない。売りつけない。普通の家にいて、肩書きがない。家族が怖がるほど当たる
見分けるのは、当たるかどうかより先に、脅すかどうか。

会いに行くかどうかを、決める前に

ユタに会いたいかどうかは、人それぞれだと思います。僕は、会いに行ってよかった。あの夜が、旅の始まりでした。

ただ、誰かに何かを頼むとき、この一点だけは覚えておいて損がありません。不安をあおる売り方は、それだけで偽物のしるしでした。当たるかどうかを確かめる前に、脅してくるかどうかを見る。それで、大きな失敗はほぼ避けられます。

それから、もうひとつ。島のユタが読んでいたものと、あなたが初対面で感じる「なんとなく」は、規模が違うだけで同じ機能でした。会いに行かなくても、入口はもう持っています。