精神世界という言葉が、どうしても怪しく聞こえてしまう。

説明を読んでも、余計に分からなくなる。僕もそうでした。理系だったので、目に見えるものしか信じていなかった。

先に答えを言うと、精神世界は、遠いどこかにある別世界ではありません。あなたが毎日、当たり前に取引をしている場所です。証拠は、財布のなかにあります。順番に、書きます。

精神世界とは、どこのことなのか

この世界は、大きく二つに分かれていると僕は見ています。ひとつは、物理世界。目に見えて、手で触れる世界です。もうひとつが、精神世界。意識のなかにある世界です。

怪しく聞こえるのは、後者の名前のせいです。中身のほうは、そうでもありません。確かめるのに、いちばん早い例があります——お金です。

物理世界目に見えて、手で触れる紙、硬貨、体、建物犬にも猫にも見えている精神世界意識のなかにある値打ち、国、法律、約束人間にしか見えていない物理世界目に見えて、手で触れる紙、硬貨、体、建物犬にも猫にも見えている精神世界意識のなかにある値打ち、国、法律、約束人間にしか見えていない
二層の世界。あなたは両方に、毎日いる。

一万円札の値打ちは、どこにあるのか

ここで、調べた話を置きます。

日本の紙幣は、国立印刷局が作っています。2023年度の銀行券の製造費を、その年に作った約30億枚で割ると、一枚あたりの原価は、およそ20円です。一万円札も、千円札も、ほぼ同じ紙と印刷でできているので、原価は大きく変わりません。

つまり、一万円札の値打ちのうち、紙と印刷のぶんは20円ほど。残りの約9,980円は、紙のなかにも、銀行のサーバーのなかにも、ありません。全員があの紙にその値打ちがあると信じている、という一点にだけあります。

約20円紙と印刷の原価2023年度の製造費÷枚数約9,980円残りの値打ち紙のなかには無い意識置いてある場所全員が信じている、という一点2023年度の銀行券製造費と製造枚数(約30億枚)から算出約20円紙と印刷の原価2023年度の製造費÷枚数約9,980円残りの値打ち紙のなかには無い意識置いてある場所全員が信じている、という一点2023年度の銀行券製造費と製造枚数(約30億枚)から算出
一万円の値打ちの、ほぼ全部は紙の外にある。その置き場所が、精神世界。

だから、全員が信じるのをやめた瞬間、あれはただの紙に戻ります。歴史のなかで紙くずになった通貨は、実際にいくつもありました。逆に言えば、20円の紙を一万円として毎日やりとりしている時点で、あなたはもう精神世界で取引をしています。

人間だけが、そこにアクセスできる

ここが、面白いところです。

地球上で、精神世界にアクセスできる動物は、人間だけでした。犬に一万円札を渡したら、かじって終わりです。犬に見えているのは、物理世界の紙だけ。人間だけが、紙の向こう側の値打ちを見ています。

意識のなかにしかないのに、現実を動かしているもの。お金のほかにもあります。国家。国境線は、地面には描かれていません。法律。会社。役職。三百年前の人の教えも、本を開くだけで受け取れます。意識だけが、時間を越えて届く。

通貨20円の紙を一万円として、見知らぬ者同士が取引できる国家・法律地面に線は無いのに、全員が同じ線を守る会社・役職建物ではなく、約束の束でできている三百年前の教え本を開くだけで、時間を越えて届く人間は肉体ではライオンに勝てない。地球でいちばん強いのは、意識を共有できるから
どれも意識のなかにしかないのに、現実を動かしている。全部、同じ場所にある。

人間は、肉体ではライオンに勝てません。それでも地球でいちばん強いのは、意識を共有できるからです。見たこともない者同士が、同じ通貨を信じて取引できる。この一点が、国家と通貨と文明をつくりました。

学問の側では、この場所は集合的無意識という名前で呼ばれてきました。心理学者のユングが名づけた、個人を越えて共有されている心の層です。霊的な世界、と言ってもかまいません。呼び方が違うだけで、指しているのは同じ場所です。

なぜ、そこが現実を動かすのか

お金が精神世界の住人だとすると、お金の流れは、物理世界の計算だけでは決まらないことになります。労働時間や時給だけでは動かない。意識のあり方のほうに従って動く。

実際、そう見えました。お金を「人から奪うもの」と見ている人は、奪い合いの流れのなかに立ちます。奪う人は、奪われる。だから、いずれ壊れていきました。お金を「価値提供の対価」と見ている人は、感謝が集まる流れのなかに立ちます。だから、感謝されながら続いていきました。

精神世界という言葉を、僕はもう怪しいものとして扱っていません。財布のなかの20円の紙が、毎日それを証明しているからです。怪しいのは名前だけで、場所のほうは、生まれたときからずっと使っていました。