理由が言えないぶん、自分の心が狭いのだと思ってしまいます。相手に落ち度はないのに、会ったあとに重い。
先に答えを言うと、その感覚は、心の狭さではありません。言葉より先に、潜在意識が読み終えているだけです。そして、疲れの正体のほうも、研究で名前がついています。順番に、書きます。
合わないと感じるのは、何が起きているのか
初対面の人に会った瞬間、なんとなく合う、なんとなく苦手を感じたことがあるはずです。言葉を交わす前に、もう感じている。
人が会話でやりとりする言葉の量よりも、表情や、声の質や、間の取り方から受け取っている情報の量のほうが、はるかに多いからです。頭がそれを整理し終える前に、潜在意識のほうが先に答えを出しています。理由が言えないのは、頭を通っていないからでした。
若い人はこれを「バイブスが合わない」と言い、昔の人は「波動が合わない」と呼びました。言葉が変わっただけで、やっていることは変わっていません。
感情は、人から人へ移っている
ここで、調べた話を置きます。
1993年、心理学者のハットフィールドたちが、情動伝染という考えをまとめました。人は、相手の表情、声の調子、姿勢、動きを、無意識のうちに真似て、同調させてしまう。そして、真似た結果として、感情のほうまで相手に寄っていく。落ち込んでいる人と話すと自分も沈み、自信のある人と話すと自分も明るくなる。それが、自動で起きているという研究です。
つまり、一緒にいる相手の機嫌は、あなたの機嫌に、毎回少しずつ移っています。合わない人といて疲れるのは、気のせいではなく、相手の状態を体で真似続けた結果でした。
条件で上書きすると、どうなるのか
ここからが、今日の本題です。
合わないと感じたとき、多くの人は自分を説得します。悪い人ではないのだから。仕事の付き合いだから。相手にも事情があるのだから。
僕もやりました。そして、結果はいつも同じでした。「合わない」が「合う」に変わった例を、僕は一度も見ていません。
変わらないまま、会うたびに少しずつ消耗が積み上がっていきます。情動伝染は、説得では止まりません。頭で「悪い人ではない」と決めても、体のほうは会うたびに相手を真似続けている。しかも、その消耗には名前がつきません。だから、疲れの原因が自分の弱さのように見えてしまう。
消耗する場所にいるだけで、判断力そのものが落ちます。そのあとで下した決断が、うまくいかない。そこまでが、ひと続きでした。
誰と過ごすかを、どう決めるのか
誤解のないように書いておきます。合わない相手を、嫌いになる必要はありません。悪い人だと判定する必要も、まったくない。判定を下すのと、距離を取るのは——別のことでした。相手を悪く思わないまま離れられると、こちらの心も荒れません。
やることは、距離だけです。会う回数を、少し減らす。
そして、逆側も覚えておくと役に立ちます。情動伝染は、良いほうにも働きます。少しでも好感が持てる相手からは、良い流れが始まります。すごく好き、である必要はありません。悪くないな、で十分でした。その小さな好感は、潜在意識が「この相手は受け取っていい」と判定したしるしだと、僕は見ています。
誰と過ごすかは、浴びる情報と同じで、あなたの器をつくり変えていきます。願い方をどれだけ磨いても、日常で浴びているものが消耗系なら、器はその形に固まりました。体は、そばにいる人を真似るようにできています。なら、真似したい人のそばにいるのが、いちばん早い。



