原因を心の中にばかり探して、疲れてしまう。性格のせいだと、自分を責め始める。
先に答えを言うと、心の天気の材料は、頭の中だけで作られていません。ただ、よく言われる「幸せホルモンの9割は腸」という話には、続きがあります。腸で作られたそれは、脳に届いていない。届いているのは、別のものでした。順番に、書きます。
腸とメンタルは、本当に関係があるのか
僕は、食事を変えたとき、先に変わったのが気分のほうだった人間です。朝の重さが、違う。イライラの回数が、違う。不安が湧いてくる頻度そのものが、違う。理屈は、あとから知りました。
腸には、五億ほどの神経細胞があります。脳に次いで多く、脊髄の五倍。だから、第二の脳と呼ばれる。ここまでは、よく書いてある話です。
腸の幸せホルモンは、脳に届いているのか
ここで、調べた話を置きます。
セロトニンは、機嫌の材料として知られていて、体にあるものの大半は腸で作られています。ここから、腸を整えれば脳のセロトニンが増える、という話になりがちです。ところが——セロトニンは、血液脳関門という脳の門を、通れません。腸で作られたものは、腸と血液のなかで働いて、脳には入っていかない。
では、腸の状態が心に影響するのは、なぜなのか。物質ではなく、線でした。迷走神経という太い神経が、腸と脳をつないでいて、その線の八割から九割は、腸から脳へ向かう上り線です。脳が腸に命令を下ろす線より、腸が脳に報告を上げる線のほうが、圧倒的に多い。
腸は、脳の言うことを聞く臓器ではなく、脳に報告し続けている臓器でした。今日の腸の様子が、上り線で一日中、脳に届いている。
線を切ると、何が起きるのか
この線が本当に効いているのかを、確かめた実験があります。
2011年、アイルランドのコーク大学のブラボーたちは、マウスに乳酸菌の一種を食べさせ続けました。すると、ストレスを受けたときに出るホルモンが減り、不安や落ち込みに近い行動も減った。ここまでなら、よくある腸活の話です。
決め手は、その次でした。迷走神経を切ったマウスでは、同じ菌を食べさせても、効果が出なかった。腸の変化が心に届くには、線が必要だった。物質が血で運ばれたのではなく、腸からの報告が上っていたのです。
気分が重いのは、あなたの心が弱いからではありません。土台の側から上がってくる報告が、重い内容だっただけかもしれない。心の中をいくら掘っても、報告の送り主は、腸のほうにいました。
では、どこから入るのか
ストイックな食事法は、要りません。僕は、減らすことより、足すことから入りました。減らすのは、そのあとでいい。体が変わり始めると、重いものを自然と欲しがらなくなっていきます。
心を整えたい時期ほど、心の中を掘るより、報告を上げている側から入るほうが、結局は早く着きました。上り線の内容を変える。僕のやった腸活は、それだけです。
心の天気は、頭の中だけで作られていませんでした。届いていたのは、物質ではなく、報告のほうです。
出典・参考
- Bravo, J. A., et al. (2011). Ingestion of Lactobacillus strain regulates emotional behavior and central GABA receptor expression in a mouse via the vagus nerve. PNAS, 108(38), 16050–16055.(迷走神経を切断したマウスでは効果が消失)
- Vagus nerve(Wikipedia)— 迷走神経の線維の80〜90%は求心性(体の内臓の状態を中枢へ伝える)
- Enteric nervous system(Wikipedia)— ヒトの腸管神経系は約5億のニューロン。脊髄の約5倍
- Serotonin(Wikipedia)— セロトニンは血液脳関門を通過しない



